派遣先企業からの引き抜きは断るべき?直接雇用で社員になるメリット・デメリットと注意点

派遣先企業から「直接雇用」の誘いを受けると、自分の頑張りや能力を認められたようで嬉しくなってしまいますよね。

でも、嬉しいからと言っても即決するのはNGです。

なぜなら、直接雇用にはメリットばかりではなくデメリットもあるからです。

今回は、派遣社員100名へのアンケート調査をもとに、直接雇用になる際の注意点やメリット・デメリットを解説していきます。

この記事を読めば、直接雇用の誘いを受けるべきか断るべきか判断できるようになりますよ。

ぜひ、参考にしてみてくださいね。

派遣先企業から直接雇用への引き抜きの実態

当サイトでは、「派遣先企業からの直接雇用への引き抜き」の実態を知るために、派遣社員100名にアンケート調査を行いました。

【調査概要】

  • 調査対象:全国の派遣社員
  • 調査期間:2019年9月11日~12日
  • 調査方法:インターネットによる任意回答
  • 有効回答数:100名

直接雇用に誘われたことがある人は派遣社員全体の71%

派遣先から直接雇用の誘いを受けたことがある割り合い

当サイトが行ったアンケート調査では、なんと71%の派遣社員が「派遣先企業から直接雇用に誘われたことがある」と回答しました。

「本当は正規社員になりたいけど仕方なく派遣で働いている」という人にとって、希望のもてる結果となりました。

実際に直接雇用になった人は約半数

派遣先の直接雇用になった割り合い

続いて、派遣先企業から直接雇用の誘いを受けた人に対し、「直接雇用になったかどうか」を聞いてみました。

「直接雇用になった人」と「ならなかった人」は、ほぼ半々という結果に。

誘いを受けても断ってしまう人が、半数以上もいることがわかりました。

直接雇用を断った理由(複数回答)

では、なぜ半数以上の人が、せっかく受けた直接雇用の誘いをなぜ断ったのでしょうか。

直接雇用にならなかった理由

最も多かったのは、「派遣先の会社に不満がある」という回答でした。

【口コミ】

  • 労働環境が悪く、正社員になると大変だと思った
  • 人の入れ替わりが激しい会社で、私も続かないと思った
  • パワハラ・マタハラが常習化しているブラック企業だった
〔出典〕独自アンケート調査

など、企業に対しての不満や不信感から、ずっと働き続けるのはイヤで断ったとの声が多く聞かれました。

また、

【口コミ】

  • 派遣の方が気楽
  • 責任のある仕事をしたくない
  • 正社員になると残業や休日出勤が増え、家庭との両立が難しくなる
〔出典〕独自アンケート調査

のように、派遣の気楽さや自由な働き方が好きなので直接雇用は断ったとの声もありました。

直接雇用になった理由(複数回答)

次に、直接雇用の誘いを受けた方の理由を見ていきましょう。

直接雇用になった理由は?

「給料が上がるから」「ボーナスや交通費が出るから」など、金銭面を理由に直接雇用を選んだ人が半数以上を占めました。

また、雇用が安定する理由には「契約を切られる心配がなくなる」と不安が解消されることを挙げている人が多かったです。

ほかに、「職場の居心地が良かった」「上司が信頼できる」など、その会社自体に好印象をもち「ずっと働きたい」と思ったことが直接雇用になる決め手となったとの意見もありました。

注意

2020年4月に導入された「同一労働同一賃金」によって、職務の内容・配置の変更の範囲などが正社員と同一の場合には、派遣社員もボーナスや交通費が出るようになりました。
労使協定方式を採用している大手派遣会社の大半が、交通費は実費支給(月額3万円上限)、賞与は時給に含んだカタチで支給しています。

※参照元:同一労働同一賃金特集ページ |厚生労働省

派遣から直接雇用になるメリットとデメリット

それでは、上記アンケートで「直接雇用になった人」「ならなかった人」の意見をもとに、派遣から直接雇用になるメリットとデメリットを紹介していきます。

直接雇用になるメリット3つ

  • 1.収入が増える
  • 2.雇用が安定する
  • 3.人間関係の心配がない

1.収入が増える

直接雇用になるメリットとしてまず挙げられるのは、収入が増えることです。

派遣の時給は高いため、正社員よりも収入になると思っている人も多いかも知れませんが、年収で見ると正社員の方が高いケースはほとんどです。

派遣は「時給制」がほとんどのため、休日の多い月は月収が下がってしまいます。

たとえば、休日が多い月は月収が下がります。

「時給1,500円」で「1日7時間」働いている場合、月に休みが3日増えると月収は31,500円減ります。

1,500円×7時間×3日間=31,500円

土・日・祝日が休みの企業であれば、

  • ゴールデンウイークがある4・5月
  • お盆休みのある8月
  • 年末年始の1・2月

などは収入が減りやすいですね。

体調不良で欠勤した際も、休んだ日の給料は丸ごとカットになります。(※6ヶ月以上継続勤務した場合は、有給が付与されます。)

一方社員になると「月収制」の企業が多いので、休日が多い月でも給与収入は一定です。

また、派遣と正社員で年収に大きく差が出るのはボーナスの有無です。

ボーナス額は会社によって様々ですが、業績の良い会社なら社員のボーナスは年2回。それぞれ月給の2倍程度出るのが相場となります。

「同一労働同一賃金」の導入によって「職務の内容」「配置の変更の範囲」などが正社員と同一の場合、派遣社員もボーナスが支給されるようになったものの、賞与の支給方法は時給に含まれているケースがほとんどで、正社員のように年2回まとまった額のボーナス支給があるわけではありません。

社員 派遣
月収 毎月安定している 休日の多い月は下がる
ボーナス 年2回 時給に含まれる(労使協定方式の場合)

以上をふまえると、正社員と派遣では年収にして数十万円以上の差が出ることも少なくありません。

収入を仕事の第1条件と考えるなら、直接雇用を選んだ方が良いと言えますね。

2.雇用が安定する

雇用が安定するのも、直接雇用の大きなメリットです。

  • いつ契約を切られるかわからない
  • 次の仕事がすぐに見つかる保証がない
  • 無職になるかもしれない

上記のような不安が常にある派遣社員と違い、正社員なら次の仕事を探す必要もなく、同じ会社にずっといられるからです。

一昔前と違い、正社員になれば定年退職まで安泰というわけには行きませんが、それでも数ヶ月ごとに1回契約更新のある派遣社員に比べれば、雇用が安定していることに間違いないのではないでしょうか。

筆者の生まれ故郷の三重県鈴鹿市という土地では、本田技研工業、旭化成、富士電機といった大手企業の工場がたくさんあります。

工場の規模や数に伴い、期間工や工場派遣で働く人も多いのですが、会社の景気が悪くなって契約解除になる人も多く見てきました。

しかし、景気が原因で正社員の大量リストラといった話は、実際にほとんど聞いたことがありません。

3.人間関係の心配がない

人間関係の心配をせずに同じ職場で長く働く決断できるのも、派遣から直接雇用になるメリットです。

初めから企業へ正社員として入社した場合、苦手な同僚や上司がいたとしても、

  • 「せっかく、正社員として採用になったのに辞めたら親が心配するだろうな」
  • 「入ってすぐ辞めたらカッコ悪い」
  • 「辞めた後、次の仕事先が見つかるだろうか・・・」

といった感情の面から、人間関係が辛くても我慢して働き続ける人も多いと思います。

一方「派遣会社から直接雇用」となれば派遣として数ヶ月~数年働いているので、職場の雰囲気や人間関係など理解したうえで直接社員になるため安心ですよね。

【口コミ】

  • 誘ってくださった上司が仕事出来る人で、また信頼できると感じた
  • 会社の雰囲気が良く、長く働けると思った
  • 馴染みやすく働きやすい職場だったため、離れるのが名残惜しくて直接雇用の誘いを受けた
〔出典〕独自アンケート調査

直接雇用になるデメリット3つ

  • 1.派遣ならではの自由がなくなる
  • 2.仕事を辞めにくい
  • 3.仕事が大変になる可能性がある

1.派遣ならではの自由がなくなる

雇用の安定と引き換えに、派遣ならではの自由な働き方はできなくなるのが、直接雇用のデメリットです。

派遣は契約期間さえ守れば、働きたいときに働き、辞めたいときに辞められます。

また、「結婚したので残業なしの仕事」「お金がほしいから残業の多い仕事」「子どもが小さいうちは時短の仕事」など、ライフスタイルに合わせた働き方も派遣では可能です。

一方、直接雇用の場合、派遣に比べると簡単に仕事を辞めることはもちろん、働き方や仕事の量を選ぶことが難しくなります。

派遣の自由な働き方に魅力を感じていている人にとって、直接雇用になることは不自由に感じることもあるでしょう。

2.仕事を辞めにくい

派遣社員のように簡単に仕事を辞めたり職場を変えたりできないのも、直接雇用のデメリットの一つです。

派遣の更新は数ヶ月ごとに、派遣社員の意思確認後に行うため、「仕事が思っていたより大変」「職場の雰囲気が合わない」と思ったら、更新しない選択肢もあります。

しかし、正社員が会社を辞めるとなると、同僚や先輩に伺いを立て、上司に了承を得て、退職届を提出しなければいけません。

「更新しません」と派遣会社に伝えるだけで辞められる派遣とは、この点が大きく違います。

  • 一つの職場で長く働きたくない
  • 今の仕事が自分に合っているかわからない
  • ほかにやりたい仕事がある

上記のような人は、直接雇用のお誘いがあっても、いったんよく考えたうえで決断しましょう。

3.仕事が大変になる可能性がある

派遣から直接雇用になることで、仕事量が増え責任を課せられる可能性があります。

派遣社員の仕事内容は契約で細かく決められており、派遣先企業が勝手に業務内容を変えたり増やしたりすることはできません。

しかし、直接雇用になれば企業が自由に仕事内容を決められるため、

  • 残業や休日出勤が増える
  • 転勤や出張がある
  • 責任のある仕事を任される

といったこともあります。

後から「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、直接雇用になることで仕事内容にどのような変化があるのか、きちんと確認してから決断することをおすすめします。

直接雇用になる際の注意点3つ

直接雇用になる際に注意して欲しいのが以下の3点です。

  1. 雇用形態は「正社員」と「契約社員」どちらなのか
  2. 待遇面や仕事内容の変更点
  3. 離職後1年以内の労働者派遣禁止のルール

それぞれの注意点について詳しく説明します。

1.雇用形態が「正社員」か「契約社員」かを確認しよう

直接雇用の誘いを受けた際の注意点として、確認してほしいのが「雇用形態」です。

直接雇用と聞くと「正社員」と思ってしまいますが、「契約社員」としての雇用の場合もあります。

「正社員」は無期雇用での契約となりますが、「契約社員」の場合、有期雇用での契約が一般的です。

2013年の労働契約法の改正により、有期労働契約が反復更新され、通算5年以上になった場合には、労働者の申し込みによって会社側は無期契約に転換しなくてはならない”無期転換ルール”が定められたことで、「契約社員」であったとしても、一定の雇用の安定は図られるようになったかと思います。

しかし、会社側が「正社員」と「契約社員」ですみわけをしている以上、労働条件や待遇に差異があることが考えられます。まずは、引き抜き後の雇用形態が「正社員」なのか「契約社員」なのかは確認しましょう。

2.待遇面や仕事内容の変更点も確認しよう

雇用形態を確認したら、次に確認したいのが「待遇」や「仕事内容」の変更点です。

直接雇用になることで

  • 月給制になったけど時給換算したら派遣社員より待遇が悪くなった
  • 派遣会社の福利厚生のほうが充実していた
  • 残業や休日出勤の必要性がありライフスタイルに合わない
  • 責任ある仕事内容になり負担が大きい

といった不利益やミスマッチが生じる可能性もあるからですね。

また契約社員として直接雇用される場合は、以下の点も確認しておきましょう。

  • 更新の有無
  • 契約社員から正社員になれるのか

事前に雇用契約書などで契約内容をしっかり確認しておかないと、「引き抜きに応じなければ良かった」と後悔することになりますよ。

3.離職後1年以内は直接雇用されていた会社で派遣社員として働けない

離職後1年以内は、直接雇用されていた会社で派遣社員として働けないので注意しましょう。

なぜなら、離職後1年以内の労働者派遣禁止のルールが派遣法で定められているからですね。

労働者派遣法 第四十条の九:(離職した労働者についての労働者派遣の役務の提供の受入れの禁止)
派遣先は、労働者派遣の役務の提供を受けようとする場合において、当該労働者派遣に係る派遣労働者が当該派遣先を離職した者であるときは、当該離職の日から起算して一年を経過する日までの間は、当該派遣労働者(雇用の機会の確保が特に困難であり、その雇用の継続等を図る必要があると認められる者として厚生労働省令で定める者を除く。)に係る労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。

引用元:e-GOV法令検索

労働者派遣法 第三十五条の五:(離職した労働者についての労働者派遣の禁止)
派遣元事業主は、労働者派遣をしようとする場合において、派遣先が当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば第四十条の九第一項の規定に抵触することとなるときは、当該労働者派遣を行つてはならない。

引用元:e-GOV法令検索

例えば、派遣社員から契約社員としてA社に直接雇用されたものの、契約社員の働き方が合わず退職。

「やっぱり派遣社員としてA社で働きたい」と希望しても、退職してから1年経過しなければ、派遣会社からA社へ派遣してもらうことも、A社に派遣社員として受け入れてもらうこともできないわけですね。

直接雇用になるのは派遣社員の自由で違約金もなし

今回、「なぜ直接雇用の申し入れを受けなかったのか?」というアンケート調査の質問に対し、

  • 派遣会社から、直接雇用になることを禁じられているから
  • 「直接雇用を受けてはいけない」という社内規則があるから
〔出典〕独自アンケート調査

という回答がありました。

しかし結論から言えば、直接雇用になるかどうかは派遣社員の自由であり、派遣会社が禁止することはできません。

もちろん、直接雇用になったからと言って違約金や手数料などを請求されることもありません。

上記は、労働者派遣法第33条で定められています。

もしも派遣会社から「直接雇用を受けるのはダメ」「受けるなら違約金が発生する」などと言われても、従う義務はまったくないので安心してくださいね。

注意点

直接雇用になれるのは、派遣契約期間の終了後です。たとえば、3ヶ月契約で派遣先に就業している人が、契約期間途中で直接雇用に切り替えることは契約違反になります。

派遣から直接雇用になる際の履歴書の書き方

派遣から直接雇用になる際は、履歴書を提出します。

ただし、あくまでも形式的なものなので、丁寧な字ですべての項目を埋めれば十分です。

なぜなら、「派遣→直接雇用」の場合、企業はあなたの仕事ぶりや人柄に納得したうえで声をかけているため、履歴書の内容によって不採用になることは可能性としてはとても低いからです。

とはいえ、すでに働いている派遣先企業に対して「志望動機はどう書けばいいの?」と悩む人も多いと思います。

志望動機には、”なぜ正社員になりたいか”を前向きな言葉で書くのがおすすめです。

たとえば「もっと深く仕事に関わりたい」「御社の戦力になりたい」のような感じです。

また、証明写真も忘れずに貼ってくださいね。普段カジュアルな服装の会社であっても、証明写真はスーツ姿で撮影するのがマナーです。

直接雇用の誘いを断る方法

  • 直接雇用にはなりたくない。でも、断ったら気まずくならない?
  • せっかく誘ってくれたのに断るのは申し訳ない

そのように感じる方は少なくないでしょう。

「派遣社員」という働き方を自分の意志で選択している場合、そこにはなにかしらの理由があるはずです。

その理由を正直に伝え、直接雇用のお誘いを断ることが一番ではないでしょうか。

正直に伝えることで、その方の事情をくんだうえで最善の労働環境を提供してくれることも考えられます。「派遣社員という働き方が好き」「派遣社員という働き方の方があっている」という理由でも問題はありません。

”誘いを断る”というのはどの場面でも悩みがちな問題ですが、だからこそ断る理由は誠実に伝えることをおすすめします。

まとめ

派遣先の企業から直接雇用の誘いがあった際は、企業側の言うメリットだけを鵜呑みにしてはいけません。

  • 雇用形態が「正社員」なのか「契約社員」なのか
  • 仕事内容や仕事の範囲がどれくらい変わるのか
  • 残業はどれくらいあるのか
  • 出張や転勤はあるのか

上記4つは最低限確認をしその他、気になる点は遠慮せずに聞いておきましょう。

さまざまな方面からトータルで見て、直接雇用に切り替えることがあなたにとって本当に良いことなのかどうか、良く考えてから決断してくださいね。

最後に当記事の監修者、社労士事務所「志」代表の村井志穂氏からアドバイスいただいたのでご紹介します。

村井志穂氏
村井志穂氏からのアドバイス

働き方改革が進み、雇用に対する考え方や社会の取り組みは日々アップデートされています。

どのような雇用形態であっても、その人自身がやりがいをもって仕事ができる取り組みを行っている会社も増えてきています。

会社から直接雇用のお誘いがあった時、自身にあったライフスタイルやワークスタイルはなにかを今一度見つめなおしてみるといいかもしれませんね。

■監修者プロフィール
社労士事務所志代表
村井志穂(むらいしほ)氏

【社会保険労務士会登録番号】第23210035号
【愛知県社労士会登録番号】第2313540号
椙山女学園高等学校 椙山女学園大学卒業

人事労務関連のソフト会社に入社後、カスタマーサポート・マーケティング・システム開発に携わる。

社会保険労務士資格取得後は、システムエンジニアとして勤めつつ、自身の事務所を開業。システム開発の経験を活かした、Office製品を利用した業務効率化ツールの提供も行っている。

また、当記事は弁護士の坂東大士氏からリーガルチェックいただいております。

弁護士 坂東大士(ばんどう ひろし)氏

澁谷・坂東法律事務所
坂東大士(ばんどう ひろし)氏

(大阪弁護士会 登録番号 47642)

経歴
2009年 関西大学法科大学院 卒業
2011年 司法試験 合格
2013年 大阪弁護士会登録
2019年 澁谷・坂東法律事務所開設

所属団体
大阪弁護士会労働問題特別委員会
租税訴訟学会
関西圏国家戦略特区雇用労働相談センター雇用労働相談員(2015年度)
東大阪商工会議所会員

弁護士の視点から当記事が法的に問題ないかをチェックしていただいております。